夢を訪ねて…
〜夢から覚めた夢、***といた一晩〜


――9月29日深夜、俺はもくもくとベッドの上で手紙を書いていた。

手紙なんて大層なものではない。小学生の頃から使い切れずにあまっているトトロのノートにペンを走らせていただけ・・・。
ここ数日の、もうどうしようもなくなった恋心が1文字1文字となって散っていった。しかし、その手紙は渡すつもりも必要性も勇気も見いだせていなかった。

9月30日の朝、俺は***との穏やかな生活を終えて、目覚ましが鳴る前に起きていた。3時間ほどしか寝れていないにもかかわらず、頭は爽快感でいっぱいで、さっきまでの夢がいかに心地よかったかを証明している。

寝る前に書いていた手紙をかばんにしまって、大学に出かけた。

日中は何事もなく、夕食を友達と終えて駅へ向かうことに。
手紙は渡す気もないが、それにしてもこのまま帰ってしまうには未練がある。下宿している***。

そんな事情をを友達が察するはずもなく、バスは無情にもマンションの前を通過、そのまま駅へ。俺はいさぎよく諦めて道を選んだ。

はずだったが・・・あの日こそ、俺の魂は完全に乗っ取られていた。まさに操縦不能。帰宅してすぐに出発の準備。
夜10時半過ぎ、電車ではなく車で大学へと向かう。大学ではない、***に会いたい一心で。

どうする・・・電話するにも何と言うか。俺は普通に会話ができればそれでいいのだが、外はすでに寒いこの季節。もし会えることになっても、車内かそれとも部屋に入れてもらうか。どちらも悪い選択。

迷っていても仕方がない、すでにここまで、家の前まで来ている。
呼び出し音が車内に響く・・・長い・・・。ようやく出た、何を話したかは覚えていないが、分かったのは***の部屋にはリンゴしかないということと、部屋の番号。

もしうまく喋れなかったら車で眠ってから明日大学に行こうとさえ思っていたのに、なんと部屋に上げてくれるという。

今思えば、あの瞬間から俺は正夢を辿っていたのかもしれない。

エントランスのインターフォン、階段、廊下、それから玄関。
全てを一歩一歩踏みしめながら、これは夢かと確認していた。

***は今までの女性では一番喋りやすい、一方、まだ会って1ヶ月ちょっとということも事実。

核心は切り出せず、友達のことや高校時代や昔のことなどを延々と喋りあっていた。その光景、どこかですでに経験済みだったような気もした。朝の夢だったのかとも思うが記憶にはない。

とにかく、自分が***の部屋にいて、***とたわいもない話で夜をあかしている。そんな光景じたいが異常事態で、幸せをかみ締める余裕もない。

2人共通の友達の恋愛の話になったとき、***は俺を苦しめた。
登場する女性のことを、実は俺が好きなんだろうと聞く。
そんなオチのわけもない。俺はお前の事が好きだというのに。
***は全く気がつかない。楽しい話が続いた・・・。

お互いの恋愛感について話し合った後、俺は今までに好きになった6人の女性についての考察を話した。思い出ネタでは「恋心動向分析」にも登場している6人の話だ。

そしてついに7人目についての話。
***は俺の新しい恋を楽しそうに聞いているのだ。

好きな人と語りあかす夜。こんな情景を俺はここ数日、夢を通して眺めていたはず・・・。

「俺な、ここんとこ毎日、なんかその人と一緒に生活してるっぽい平凡な夢を見てるねん。ほんでもって、そこで見た情景が今ここにあるねん・・・」

「え?それって話の筋から言って、7人目は私ってことですか!?」

ちょっと喋る言葉につまずく。こうなるぐらいなら、普通に喋るのを楽しむだけでよかったとも思う。

――ケータイが鳴った。

目覚めると10月1日。昨日と変わりない俺達がいた。

***が出かける準備をしなければならない。俺は急いで出た。

帰るとき、俺はまたその一歩一歩を踏みしめていた。

こうして俺は、夢が始まってから夢が終わるまで、それを見届けたのだ。

初めて女の子の部屋に入って、しかもそれが好きな人で、告白の日になるとは思ってもみなかった。

当時の俺にとってはとても貴重でうれしかった体験をまた思い出せるように、ここに書き記す。


平凡な〜あの夢ぐらい〜正夢で〜あってくれよと〜今なお思う

03年10月1日