-お断り-
ジャンルは童話なんですけれど、そう思って読まれると非常に失望させると思います。
どうか平穏(平和で穏やか)な日に、心を大きく広げて読んでおくれやす。
それから誤字脱字、遠慮なく突っ込んでください。できれば楽しんでください(願)


アヒルの湖
03/05/20


 昔々とある湖のほとりに、田中という醜い青年が暮らしていました。

 ある日、田中が2人のお供を連れて日課の釣りをしていると、川上からどんぶらこ〜どんぶらこ〜と裏向きに引っくり返されたカメが流れてきました。そのカメの横を少年が楽しそうに追っかけています。このままでは湖に流れ込んで一生浮かんだままで終わるかも知れません。
居ても立ってもいられなくなった田中さんは少年に声をかけました。

 「ヘイ・ユー! 朝っぱらからカメをいじめ遊ぶとはナイス・ファイトだ。1号・2号、こらしめてやりなさい!!」。「イエッサー!!」

 そんなわけで少年はあっという間に湖に投げ込まれてしまいました。

するとどうでしょう。湖がパッと光ったかと思うと中からこの世の者とは思えないそれは美しい鈴木さんが現れたのです。そしてそっと唇が動きました。

「あなたの落とした少年はこの子ですか?」。

見ると、おそらく人間のものと思われる手足や骨がむき出しになった物体でした。

1号は「と、とんでもない鈴木さん!私達がよってたかって投げ落とした少年はもっと筋肉質でした(涙)」

と叫んだかと思うと舌を噛み切って死んでしまいました。

鈴木さんは冷静に1号の死体を眺めながら沈んでいきましたが、すぐにまた浮かんできました。今度は別のものを持っています。

「では、この子ですか?」。

 2号の顔が大きくゆがみました。その少年は明らかに先ほどの少年でしたが、怖くなった2号は

「ひ、ひぇ〜違います!もっとパンクでイケてる少年でした!!」

とウソをついてしまったのです。

 するとあれほど美しかった鈴木さんの顔が見る見るうちに鬼のような形相に変わったかと思うと

「あなたは嘘つきです。嘘つきは鼻が伸びるのよ!!あなたには私の豪邸で一生働いてもらいます!!」

といって、掴んでいた少年を2号に投げつけました。
すると2号の姿はアッという間に耳よりも鼻の方が長いウサギに変えられてしまいました。しかも鈴木さんは何故か無言で湖の底、鏡で作られた鈴木御殿へと帰っていったのでした。


 田中が舌から血を流している1号の死体に寄り添って悲しんでいると、先ほどのカメがノコノコとやってきていいました。

「田中さん、先ほどは助けていただいてありがとうございました。お礼にこの湖の主、鈴木さんの豪邸へご案内いたしませう。ささ、どうぞ背中に」。

田中がカメの背中にまたがったところ、ウサギが慌ててやってきました。

「師匠、申し訳ありませんでした!私は今から罪滅ぼしのため鈴木邸で働かなくてはなりません。どうか私と一緒に行きましょう。」

田中は考えましたが、ウサギとカメでは何をどう考えても泳ぎが上手いのはカメです。合理主義の田中は迷わず「すまない2号、私の座右の銘は君も知っての通り「Time is money」だ。君には悪いがこれからはカメ君と共に人生を歩みたいと思う。カメ君、これからは君が2号だ!!」

といってカメの背中から降りようとはしません。2号は半分怒っていいました。「私がこんな姿にされていい気味なのでしょう!わかりました。では鈴木邸の門まで先にたどり着いた方が2号の座を得ることができるというのはいかがです。それなら文句はないでしょう!!」。

この熱い一言が田中の心を動かしました。

「よぅし。では勝ったほうが1号、負けた方が2号だ!!それで文句あるまい」

「えっ、勝ったら1号!?。がんばるぴょ〜ん!!」

しかしあくまでもカメは余裕の表情です。

「ささ田中さん。そんなとぼけたウサギは放っておいて早く参りませう^^」、といって華麗に泳ぎ始めました。慌ててウサギも追いかけますが…もがいているだけでいっこうに前へ進めません。そうこうしている間にも田中さんを乗せたカメはぐんぐん潜ってゆきます。


 さて、少し経ってカメは余裕を浮かべて田中さんに話しかけます。
「田中さん、ちょっと休んでいきませうか。あいつのことですからいつまでたっても鈴木御殿に辿り着けるはずもありませんからね。あわてないあわてない、一休み一休み(笑)」

しかし田中の返事はありません。

「ひどいや田中さん、先に自分だけ寝ちゃって。あぁ疲れた、僕も休もうっと。あ、忘れてた!!鈴木さんにカルビ焼肉弁当とガリガリ君ソーダ味を買ってくるように言われてたんだった。コンビニ寄らなきゃ、ちょっと寄り道しますよ田中さん」

とて寄り道をするありさまです。


 一方ウサギは必死でもがいていますが、あまり効率よく前に進むことができません。さっきまで前に見えたカメも見えなくなってしまいました。
それでも頑張って泳いでいると前方に何か沈んでいるのが見えてきました。恐る恐る近づいてみると、なんとそれは溺死寸前の田中さんではありませんか。カメはコンビニへ向かう途中で田中さんを背中から落としてしまっていたのです。

「たっ、田中さん!!田中さん!!」

ウサギはかつて田中さんの2号として暴れまわっていた頃を思い出して胸が熱くなりました。されどウサギにはどうすることもできません。こうなった今、ウサギはなおさらカメに負ける訳にはいきません。

「早く行かねば・・・!!」

ウサギは悲しみを堪えて亡き田中さんにお別れの口づけをしました。
するとどうでしょう。田中さんの姿がゆっくりと元の美しいアヒルの姿に戻ってゆきました。長年、鈴木さんにかけられていた呪いがついに解けたのです!!

「やったよ2号!!呪いが解けたんだ!!さぁ僕と一緒に鈴木をやっつけに行こう!!」


 こうして美しいアヒル(元田中)はウサギを連れて鈴木退治に出発しました。
その頃カメはおつかいを終えましたが、背中に田中さんが居ないことにまだ気づいていないようすです。

「では田中さん、急いで鈴木邸へ参りましょう」

と言って泳ぎだしました。ですがふと前を見るとあら不思議。そこには今にも鈴木邸の門に着きそうなウサギがアヒルの背中に乗っているではありませんか。

「げっ、やべぇ負ける!!ウサギの野郎、泳ぎが遅いからってアヒルなんか利用しやがって、きたないぞ!!」

とて猛スピードで泳ぎ始めました。しかし残念ながら後1歩というところでウサギが先に門にたどり着いてしまいました。

「やぁカメさん、遅かったじゃありませんか。どっかで昼寝でもしてたのかな?(笑)」

「なんだと、テメエはアヒルを使っただろーが!!そんなことして田中さんが認めて下さると思ったか、反則野郎!!」

「ん?ところでカメよ、田中さんはどこに居られるのだ?背中にはいらっしゃらないようだが?」

「・・・まじかよ!?やべえ、なんてことしてもぅたんや・・・俺、もう死にます!!」

と言って、そばにあるサンゴにかけてあったロープに首をかけようとしました。

しかしアヒルが素早くカメを取り押さえて言いました。

「まぁまぁカメ、もぅよいではないか。君の気持ちはきっと田中さんに届いているよ。そんなことよりも、私たちは今から鈴木を倒しに行くんだ。君は妻子も養えないような安月給で雇われていたんだろう?この際私たちと一緒に戦おうじゃないか」

カメは目に涙を浮かべていいました。

「あぁ、まるで田中さんのような心優しいアヒルさんだ。わかりました。亡き田中氏のために私も頑張りましょう!しかし1つだけ条件があります。この戦に勝ったらこの鈴木邸を私にくれるかな?」。

「いいとも〜。よーしこれでカメも加わって百人力だ。いくぞー!!」

こうして、アヒル・ウサギ・カメは意気投合し、打倒鈴木のため助け合うことを誓い合ったのでした。


 そんなことも知らずに、鈴木さんは自分のお部屋でのんきにおしゃれしていました。

「鏡よ鏡、湖で一番美しいのはだぁれ?」。

「それは・・・アヒルの田中です。彼がこの湖で一番美しい」。

「何を言ってるの!!あの田中は私の呪いでみにくい人間となってほそぼそと暮らして居るわ!!もう一度聞くわ、この湖で一番美しいのはだぁれ?」。

「それは、アヒルの田中です。彼の呪いは解け、元の美しいアヒルの姿となってあなたに復讐しようとしています」。

それを聞き終わらないうちに鈴木さんは、「キーッ!!なんなのよこのバカ鏡!!」

と言って窓から鏡を投げ捨ててしまいました。


さて、アヒル達がインターホンを押そうとしたら、いきなり上から鏡が降ってきました。

「ウサギ、カメ!さっそくの反撃だ、気をつけろ!!」。

皆なんとか鏡をよけたものの、鏡が喋ったのでひどく驚きました。

「田中さん、美しい貴方を映すことができて光栄です。なんとお美しい姿でしょう。やはり私の目に狂いはありません。鈴木さんはナンバー2です」。

カメは首をかしげ、まだ話がつかめていないようでしたが、

「それはありがとう鏡くん。ところで私達は今から鈴木をやっつけに行くのだが、あなたも加わってはくれないか。鈴木さんの友達のあなたが居れば心強いのだが・・・」。

「私もあのおばさんにはほとほと手を焼いていました。毎日、何度も何度も誰が美しいかと聞いてくるのですよ。少し前までは鈴木さんが1番でした。しかし、先ほど貴方がその姿にお戻りになった。私にはウソはつけませんでした。いい気味です。ようし、私も協力しましょう。その代わり、貴方のその美しい水かきを私に下さい」。

「さぁどうぞ。では家の中へ突入だ!!」

こんな勢いで入ろうとしたものの、玄関には重い扉が待っていました。

するとカメが言いました。

「田中さん、私に任せて下さい。鈴木さんにこき使われていたので体力には自信があります!」。

といって、重い扉を1匹で開けてしまいました。しかし、カメは全力を出し切った様子で動けなくなってしまいました。情けない顔をしていたカメですが、

「カメ、助かったぞ。お前はここで休んでいなさい。後は私達が頑張って鈴木をやっつけて見せるから」

というアヒルの一声ですっかり安心した顔になりました。


 屋敷をさらに奥へと進むと、辺りが騒がしくなってきました。隣の部屋が騒がしいようです。覗いてみると、これまた美形の鈴木ジュニア達が鬼ごっこをして遊んでいます。

「うら〜悪い桃太郎をやっつけろ〜」「ひえ〜お助けを〜(桃)」と、なにやら楽しそうです。

しかしとうとう鈴木ジュニアに見つかってしまいました。

「うわ〜本物の桃太郎が来た〜みんな〜やっつけろ〜♪」

といってわんさか襲い掛かってきます。しかし鏡がその前に立ちはだかりました。すると、ジュニア達は自分の美しさに溺れてアヒル達を襲うどころではなくなりました。それどころか口々に質問してきます。

「僕がこん中で一番美しいよな、鏡さん?」「何いってるの、私よ私。ねっ、鏡さん?」

ジュニア達をうまくあしらっていた鏡が言いました。

「田中さん、先をお急ぎください。私はジュニア達の相手をしておきますから!!」

田中さんは「鏡くん、割れるなよ!!」とだけ言って、ウサギと先を急ぎました。


 屋敷の奥には「スズキの間」と書かれた部屋がありました。ついに追い詰めたのです。

しかし勢いよく中へ入ると、そこには誰もいませんでした。無造作に倒された薄さ9.9cmを実現したプラズマテレビの後ろに、人が通れるほどの穴が開いていました。どうやら湖から森へとつながるクーデター対策の隠し通路のようです。なんと用意のよい鈴木さん。その先にはドタドタともがくように走る鈴木さんの姿が見えます。

さぁ、いよいよウサギの出番です。「田中さん、私が追っかけて捕まえてきます!!」

といって飛ぶように追いかけていきました。

その間に、カメと鏡が田中さんのところまで追いついてやってきました。

「みんなで取り押さえるんだ!!」

ついにウサギは鈴木さんを捕まえ、そして重いカメが上に乗っかり、鏡は鈴木さんを映し出しました。

「あぁぁぁ、映さないでおくれ〜映さないでおくれ〜。おのれ田中〜お前の美しさは私のもの。私の美しさも私のものよ〜!!」

と叫んでいる鈴木さんに田中さんが言いました。

「鈴木、変わっちまったな……昔のお前の方がよっぽど好きだったぜ!!」

そして、自分の羽を抜いて、鈴木さんに食べさせました。

するとみるみるうちに鈴木さんの体は小さくなり、最後にはみにくいアヒルの姿に戻ってしまいました。しかし、喉に羽がつまったのでしょう、鈴木さんはもがき苦しんだあげく死んでしまいました。

田中さんは予想外の展開に動揺を隠せずにいました。ただ、悲しみにまかせていつまでもうなだれた鈴木さんを抱えていました。そんな二人をカメ、ウサギ、鏡はいつまでもいつまでも黙って見ていました。


 こうしてみにくいアヒルは悲しくも死んでからようやく美しいアヒルと心を通わせることができたのでした。めでたし、めでたし。


×あとがき×

容姿とはその人の内面をも変えてしまいます。私は今、この作品を書いていてつくづく感じたことがあります。それは、素直であることの大切さです。私は今、自分に救われたとさえ思っています。田中・鈴木夫妻のような愛は私の理想ではありますが、みなさんには彼らのような人生は送って欲しくありません。今一度、鏡の前で素直な自分と向き合ってみてください。ひょっとしたら、今まで見えなかった相手の一面に笑顔がこぼれるかも知れません。


×教訓×

うそはうそを生み そのさきに決して真実を生むことはない

たとえ、みにくいものが美しく振舞っていても、自分にないものをあるかのようにみせかけていても、いずれはばれてしまい、過酷な罰となって跳ね返ってくるものです。


×キャスト×

美しいアヒル(田中)、みにくいアヒル(鈴木)、1号(殉死)、2号(ウサギ)、カメ、鏡、鈴木ジュニア達、湖に投げ込まれた少年、手足や骨がむき出しになった少年


×制作協力×

桃太郎 浦島太郎 水戸黄門 金の斧・銀の斧 ピノキオ うさぎとかめ 一休さん 美女と野獣 笑っていいとも ヘンゼルとグレーテル 白雪姫 ドラゴンボールZ Panasonic 良福寺 全日本みんGOL協会 ジャイアン アンパンマン ごんぎつね みにくいアヒルの子 釈迦 読者の皆様


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